― バンズ ―

峰屋
(みねや)

[東新宿]

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◆ vol.3-2 ◆
初!
峰屋の"復活"ライ麦バンズでハンバーガーを

●真剣に悩む

 GORO's マスターは、今回のこのお題を前に、とにかく相当悩んだらしい。今までハンバーガーについて悩んだ中で一、ニを争うほど真剣に悩んだ。ひょっとするとコノ瞬間、都内で最もハンバーガーについて悩んでいたのは、他ならぬGORO's のマスターだったかも知れない。それぐらいこのライ麦バンズは"難敵"だったのである。

 コレは作り手の匙加減一つで全てが決まる、超絶に難易度の高いバンズである。普通にやればライ麦の酸味に中身が完全に負けてしまう。バンズの味を完璧に知り抜いて臨まねば、ハンバーガーとしてのバランスをうまく取ることはできないだろう。

 取材前夜に様子を伺うと、マスターは眉根を寄せながら「相当に手ごわい」と洩らした。あまり嬉しくない告白である。正直この"告白"を聞いた時点で私は、今回のコノ試みに「一体どんなオチを着けようか」と、そんな弱気なことまで考えだすほどに、すっかり不安になってしまっていた。


●そして調理が始まる

 今回作ったのは"基本の"チーズバーガー。ハードとソフト、それぞれのバンズで試作した。レギュラーメニューのレシピと変えたところは、通常2種類のチーズを1種類、チェダーのみにした点と、あともう一点――パティである。





●GORO's マスターの読み

 マスターはこのライ麦バンズにあわせ、特別なパティを用意していた。なにしろバンズは相当なクセ持ちである。ガサガサと硬いので、レギュラーで使っているパティでは食感が合い過ぎて、かえって食べ難くなる。

 但し、この日限りの飛び切り豪華な逸品を作るつもりもなかった。飽くまで通常のオペレーションの中でこなし得る、その範囲の内に解を求めたのである。むしろ取材的にも、その方が有り難い。

 肉屋に相談してサンプルを取り寄せ、赤身の部分を中心に味の異なる部位をいくつか合わせて、要は焼肉にして食べるような肉をミンチでなく、適度な柔らかさになるまで叩いてパティに仕上げた。

 異なる部位を数種類合わせたのは、単一の部位の味で食べるときよりも、バンズに対抗し得る強い味が醸成されるだろうという読みに基づく。また脂身は極力避けた。塩コショウもレギュラーのものより思い切りよく、強く振った。これもバンズの味に負けないためである。

 以上の準備をマスターは、私から聞き出した断片的な情報だけを手がかりに、バンズが届くより前から着手して、いつ来るかと待ち受けていた。届けられた実物を確認してみたところ、おおよそマスターが想像していた通りのバンズで、準備したパティについてもほとんど修正する箇所はなかったという。しかしそれでいてなお、このバンズを「手ごわい」と感じたのである。






●まずひと品目

 そして出来上がったひと品目、ハードバンズによるチーズバーガー。

 バンズの色といい質感といい、GORO'sにしては総じてゴツ目の仕上がり。早速食べてみた……何コレッ!!この反応は我ながら相当早かったと思う。歯に当たるなり表皮がシャリシャリと軽い音を立てて砕けてゆく……生地密度の濃いリッチ系のバンズでは表現し得ない、ハード系だからこそできる軽快な食感だ。


ハードバンズによるチーズバーガー

 こんなハンバーガー食べたことがない。あえて平たい言葉で表現するなら「サンドイッチに近い」「アチラ(米国)で食べているであろう」そして「何だかオトナな」バーガーといったところ。とにかく今まで食べたことのない感覚を持つバーガーなのである。

 まだバンズに歯を立てただけなのに、この新鮮な驚きと言ったらどうだろう。今まで食べていたバーガーとはまるで違う、コノ食感。酒種バンズがその甘味によって≪ご馳走≫の感をもたらしているとするなら、ライ麦バンズはその歯応え・その食感こそが強烈な≪ご馳走≫である。この繊細なる表現力――峰屋ご主人、自分のフィールドへ、食事パンの世界へと、食べる者を完全に引き込んでいる。バンズひとつでこうまで変わろうとは。


●ハード系バンズの真骨頂

 さらにこのバーガー、何に驚かされると言って、バンズと中身(峰屋ご主人言うところの「ボリューム」)との合い方が尋常でないのだ。

 特にいつもよりガッツリ濃い目にパティに振った塩コショウが、バンズの強い香りを極めて効果的に打ち消している。このバンズ、確かにライ麦の香りはキツイが、しかしバンズ自身に味はさほど無く、その辺りの香りと味の"凹凸"が、肉との関係において絶妙にバランスされている。極めて微妙かつ繊細なバランスコントロールであり、その結果として驚くまでの"調和"を生み出すことに成功しているのだ。今度はGORO's マスターの独擅場。

 これはパンと肉を、肉と野菜を別々に食べたのでは到底味わい得ない、ハンバーガーなればこその調和である。パンをメインに押し据えながら、「ハンバーガー=食事」というハンバーガーの"本質"を見事なまでに浮き彫りにしてみせた、そのアプローチは峰屋ご主人のまさしく意図した通り。GORO's マスターはその意図を正しく読み取り、見事それに応えたわけである。


  そしてふた品目、さらにパストラミサンドも登場 【次ページへ

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