― バンズ ―


峰屋
(みねや)

[東新宿]

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◆ vol.3-1 ◆
初!
峰屋の"復活"ライ麦バンズでハンバーガーを

 インタビューからちょうど2週間後の土曜日、その電話は突如かかってきた――峰屋のご主人からである。「例のライ麦バンズ、GORO's さんに届けときました。2種類あります。発酵のさせ方なんかを変えてますんで、違いを楽しんで下さい。10個ずつありますから」――2種類×10……20個も!!こうして「峰屋の"復活"ライ麦バンズでハンバーガー」企画が始まったのである――


●お蔵入りしたバンズ

 2週間前、新宿六丁目は峰屋の作業場で行なったインタビューの終盤、ご主人は不意にライ麦バンズの話を始めた。

 一年ほど前に試作したソレは、とにかく快心の出来映えで、いまだお気に入りの逸品なのだが、しかし時を得ず、どこにも卸す機会のないまま、結局お蔵入りしてしまったのだという。冷凍庫の奥の奥からカチンカチンに凍り付いた、文字通りのその"お蔵入り"を取り出して、見やる視線にありありと未練を滲ませながら、ついにご主人はこんなことを言い出したのである……コレ、もう一度作ってGORO's さんに届けますよ――これを聞いたときにはカメラマンのヤング君共々、飛び上がるほどにビックリしたものだ。"アノ"峰屋さんが、今回の企画のためにわざわざバンズを作ってくれる……

 そんな次第で、いつか作っていただけるだろうとは思っていたのだが、しかしそこは都内130店にパンを供給する多忙な身であられる。無理を言って急かすわけにもゆかない。はやる気持ちを抑え、出来上がるときを静かに待っていたところに、冒頭の電話である。

 かつて作られたときにはついに「ハンバーガー」に成ることはなかったが、今回ようやく、そして初めて、ハンバーガーバンズとしての本志を遂げるべく、ライ麦バンズはいま再び甦ったのである。




●GORO's DINER

 急ぎGORO's 吉澤マスターと連絡を取り、バーガーを試作する日を4日後の水曜日と決めて、友人のフォトグラファーを呼んだ。

 ちなみに、なぜGORO's DINER にこのライ麦バンズが届けられたのかというと、それは今回のインタビューの件を、GORO's 吉澤マスターを通じて峰屋さんにお願いしたことに関係する。なので峰屋のご主人も、とりあえずGORO's に届けておけば、いずれ私の口に入るだろうと思ったのだろう。だからもし私が別な店にお願いしていたなら、おそらくバンズはソチラに届いていたはずである。つまりコノ選定は偶然の部類と言ってよい(それが証拠に、峰屋のご主人はこれまで一度として、GORO's のハンバーガーを食べたことがなかった。つまり、GORO's に任せれば旨いものが出来るだろうという認識を、特別持っていたわけではないのである)。

 当日、GORO's に行くと、峰屋ご主人の話通り、2種類のバンズが待っていた。どちらもライ麦生地で、生地に粘りを出すためにジャガイモが混ぜてある。発酵には天然酵母を使用。一つはゴワッと焼き色の濃いバンズ、もう一つは従来のリッチ系にやや近いもの。以後、前者を「ハードバンズ」、後者を「ソフトバンズ」と呼び分けることにする。


●まずハードバンズ


 手に取ってみた。見た目以上に相当ゴワゴワしている。大袈裟に言えば、ちょっとした軽石を持っているような感覚だ。それくらい硬いパンなのである。その硬い表面に顔を近寄せると、皮からは香ばしくもホロ苦い、でも甘い、言うなれば黒糖のような、あるいは焼き栗のような、そんな焼き込んだ"ホロ甘さ"が放たれている。生地からはライ麦特有の強い酸味。

そのまま口にしてみた。やはりかなり硬い。気泡が大きく、スポンジのような目の粗さ。食べるうち、どこからともなくスーッと塩味が寄ってくる。薄い膜をピンと張ったような、微かな、しかし特徴的な塩味だ。バゲットに近い塩気である。時おりピリッとくる刺激はライ麦か。ジャガイモは言われればコレかな……という程度。ご主人が言う通り、スーッと確かに口溶けが良い。

 焼いてみた。真一文字に切った内側断面と、表皮のシャリシャリとした食感が驚異的!しかし身は相変わらず粗く、そして異様に軽い。


●片やソフトバンズ


 こちらはライ麦の酸味を醸しつつも、リッチ系の生地と酒種が放つ、丸い甘味も同時に感じることができ、表皮=ややハード、中身=リッチと例えたら分かりやすいだろうか。ライ麦と既存の酒種バンズの中間的な性質を併せ持ったバンズである。しかし酒種バンズほど身は詰まっておらず、口に入れれば確かにハード系の生地の軽さが感じられる。

 これも焼いてみた……食べやすさから言うと、このソフトバンズの方が食べやすい。じんわり滲み出す塩気。シャリシャリと心地よい歯応え。さらに食後に残る生地のとろけるような甘味。パンとして食べるなら絶対こちらだ。

 ハードバンズの方は、硬いし粗いし、パンとしては美味しくも何ともない。ただ、何かもう"ひと味"欲しがっているバンズだとは感じた。


  そしてGORO's マスターの調理が始まる。 【次ページへ

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