ハンバーガーストリート

vol.4

―― 西国編 ――

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コメダ珈琲店

[名古屋]
# 43

 名古屋……と言うか愛知県を中心に東海圏に展開する郊外型喫茶店チェーン。あちらでは「ちょっといいコーヒー出す店」という位置付けらしい。その名古屋の喫茶店が関東進出を果たしたのは2年前、私の現最寄り駅・田園都市線つきみ野に関東2号店がある←なぜかある←きっと名古屋式ロジックに基づいた結果に違いない←お店は繁盛!郊外型の立地を活かしたログハウス風店舗は、広い店内&高い天井。これだけ面積があれば分煙もバッチリ!座り心地の良い赤いシートは名古屋喫茶店文化の"象徴"のよう。

 以前「推賞」で取り上げようとも考えていたほどの、名古屋的クセのある迷店。食事メニューが凄まじい――エビフライ\860、ヒレカツ\810、ジャーマン\660……そしてうわさの"決して独りでは頼んでいけない"巨大デザートシロノワール(クロワッサンパンケーキ+ソフトクリーム)\560。いずれもハンパなきボリュームと心得よ。もちろん小倉トーストも……以前はあったが今は?モーニングタイムは全てのドリンクにイヤでもバタートースト+ゆで卵が付いてくる。ハンバーガー\360。ハンバーガーと並列にコロッケバンズ、エッグバンズ(ともに\360)があるが、コノ店ではちゃんと「ハンバーガー」と「バンズ」の言葉の使い分けができていて、その点で個人的評価が高い。

 サラダボールの中いっぱいいっぱいにハンバーガーが入って来る。二つに切ってある。中は合挽き確率100%パティ、レタス、飾り程度に薄〜くスライスしたオニオン。それから目玉焼きにマヨネーズ、マスタード少々。そして……ソース!そう、それは名古屋ゆえ……。ソースにまみれたレタスをパリパリさせながらいただく。目玉焼きが美味しい。半熟を過ぎて固まりかけのゼリー状の黄身がドロッと停滞している。もともとこういう状態で搬送・貯蔵されている食材なのか、あるいは各店で調理しているものなのか分らないが、黄身のコノ粘り具合は好感。このバーガーの難は、パティの直径とバンズの直径が著しく合っていないところ。パティのサイズからすれば、このバンズではぶっかぶかなのだ。ところが不思議とバンズにムダな量の多さを感じることはない。それもこれもソースの力!きっとソースかければ何でも食べられるくらい思ってるに違いないナ>名古屋人!ホットドック系に近い、オーソドックスなバンズ。あんぱん・クリームパンのような表面を思ってくれたらよい。口の中でモサ付くことなく、軽過ぎず、バーガー全体の引締め役を果たしている。

 お供にはコーヒーがさほど好きでないYo氏にも飲みやすいと好評の蜂蜜入アイスコーヒー\480。はじめから蜂蜜味が付いてる――なのでミルクなし。あーそう、コノ店でアイスコーヒー頼むとガムシロップを入れて出して良いかどうか聞かれる。あーあと、コーヒーにはイヤでも豆菓子が付いてくる。BGM――きっと店員が選んでいるであろうジャズ・フュージョン系などを中心とした、CD。私の好きなアルバムも時おりかかるのだが、「作戦」に記したとおり、どんなに良い曲でも時を選ばないと単なる独り善がりか押し付けになってしまうという点を彼はまるで解っていない。選曲センスゼロ愛・地球博のついでにでも本場名古屋テイストでどーぞ!

2005.3.12 Y.M

Saucisses

[名古屋]
# 64

 上のコメダは家の近くの関東2号店に行ったワケだが、今回の店はリアル名古屋!デラ名古屋!!


●久屋大通公園

 名古屋の道路は道幅がなにしろ広くて、初夏の日和を歩くにはとても気持ちが良い。テレビ塔の建つ久屋大通公園に面した店。

 と言っても南北2kmにわたる長い公園なので、これだけでは説明不足である。テレビ塔の北側、リバーパークと呼ばれるエリアが向かい。名古屋の中心部ではあるが、そこはやはり鉄則どおり、ど真ん中であるからはやや外れて、丸の内三丁目に位置(後日聞かされるに路駐スポットと)。駅で言うと地下鉄名城線・桜通線の久屋大通(ひさやおおどおり)駅が最寄。


●創業 1987年

 看板にはHOME MADE HOT DOG――今年'07年で20周年を迎える名古屋屈指の老舗ホットドッグ専門店である。先代店主はフリスビーの全日本チャンプで、世界大会出場のため渡米した折、スタジアムで出会ったホットドッグに――売り子が客に向かってドッグを投げるそう――強い衝撃を受けてオープンさせた。その後2代目店主・小林さんに引き継がれ、現在に至っている。

 ホットドッグと言うよりは渋目のビアパブな佇まいで、よく手入れされたこげ茶色の床板とイスの(現在は)がグッと落ち着いたシックな雰囲気。狭いキッチンを囲む棚やショーケースのガラスがひと際に印象的。

 その狭いキッチンの囲いの横を抜けるとテーブルが4席ほど置かれた、これまた狭いスペースに辿り着くのだが、ココがまた大変居心地が良くて、マガジンラックから好きな雑誌をまず1冊手に取り、適当な席に腰を落ち着ける――という一連の動きがココでは至極当たり前のことであるかのように、何人ものお客さんによって繰り返される――グッと落ち着く空間である。


●6種類の「リッチ」

 ホットドッグ10種、サンドイッチ7種、そしてバーガーは"大きく"7種。ベーシック\378、チーズ\399――この辺りにはトマトが入っていないので、6種類の組み合わせの中から中身をチョイスできるリッチ\472からチーズ&トマトを。リッチに6通りの組み合わせがあるので、正確にはバーガー12種。ともかくバーガーメニューはいずれも500円上限説を厳守しているワケで、コノ辺りの使い勝手とコストパフォーマンスの高さは素晴しいの一語に尽きる。まぁ土地が土地、名古屋は日本一の喫茶店激戦地ですから。お供はアイスオーレ\315。画像のとおり袋でキュッと縛ったようにして出て来て、実に食べやすい。

 バンズは洋食レストランで出るような、てっぺんにツノのある<テーブルロール系。濃い香りがする。以下順番に自信はないが、マスタード、ピクルス、チーズ、マヨ、トマ、パティ、レタ、下バン。白いチーズはジャイアン……じゃなかった、ゴーダ。そしてやや滋味に欠けるパティ――マックのような細い繊維の集合体で、肉らしい迫力には乏しい。マスタードとピクルスの味の印象、そしてパティの質感……マック的テイストを基調にしたオールドファッションな味わい。

 この日体調がイマイチで、味覚・嗅覚が鈍っているであろうことを考慮して、2個目――リッチのチリ&チーズもいっておいた――なにせお値段お手ごろですから。こんなとき、アイスオーレがバーガー2個分に耐える量あるのがこの上ない幸せ。チリ&チーズはチリソースに締まりがあって、初めの組み合わせよりも美味しかった……なんてなコトを考えるうち、チリを使ったホットドッグチリサワー\441辺りも食べたくなってきた。きっと美味しいに違いない。

§ §

 名古屋アレンジに走らず、本場アメリカの正統を貫く辺りが魅力。BGM――入ったときは品の良い70'sソウル/ブラックchだったが、スタッフが一名加わったタイミングで70'sロックchに変わった――どちらもシックな店内の雰囲気に上手く溶けて気持ち良かった(2007.4.10追記)。

【二ッ目!】 Saucisses [名古屋] のリッチ――ベーコン&エッグ

― shop data ―
所在地:愛知県名古屋市中区丸の内3-18-12 ナガサワビル1F
地下鉄名城線・桜通線 久屋大通駅歩5分 地図
TEL:052-961-7008
URL:http://www.saucisses.info/
オープン:1987年2月
* 営業時間 *
月〜土曜日:10:00〜22:00(21:30LO)
日曜日:10:00〜21:00(20:30LO)
定休日:無休(要確認)

2005.5.23 Y.M


Bar Captain Kangaroo

[大阪]
# 65

 大阪は新地の入口――梅田駅からヒルトンやらマルビルやらあるビル街の間を抜けて、2号線を渡るとすぐ目の前。JR東西線北新地駅が真下。コッチの方にはかつて一度も足を運んだことがなくて、どうも全国に知られた歓楽街らしい……という程度の認識しか持ち合わせない、私にとっては馴染みの薄い大阪である。

 大歓楽街の入口に在ることがこの上なく相応しい猥雑な店。東京で言うと渋谷・下北のお店のイメージかな?大阪中の外人さんたちが多数集結している。『レザボア・ドッグス』のポスターが貼ってある……と言えば一発でイメージ湧く?ギラギラ・ギトギトした装飾に満ち満ちていてとにかくキタナイのよ、床から何から――メニューはパウチの中まで飲み物が滲み込んじゃってヨレヨレのベタベタ。おしぼりなんてモノは無く、ティッシュペーパーをハイと差し出される。店内を見渡すと、オモテにベンチ、入口すぐに3人くらいで囲むスチール製のテーブル、壁にはアメコミ調龍の画(画像の右壁)、反対側にダーツマシーン(?←基本的によくわかっとらん>私)、奥の暗がりにスタッフとの会話で盛り上がるカウンター席、その手前に5〜6人掛けの背の高い円テーブルが何台か。その円テーブルのひとつにはなんと水タバコ……??店の最も奥に巨大スクリーンがあって、交流試合・阪神×オリックス戦の録画を無音で流している。そこに両手・背中にレコードをいっぱい持ったDJが「おはよーございまーす」と入って来る――そんな店。オープンエアというよりは入口開けっぴろげ・出入り自由の夜の集会場的バー。

 「うちの看板娘」「最強のハンバーガー」「ハンバーガー虎の穴出身!」「抱かれたいハンバーガー3年連続第1位!」……さて、気を取り直して“キャプテンカンガルースペシャルビーフバーガー”、略してルー特製ハンバーガー\900。バンズはB&Bで食べたゴールデンセサミを髣髴とさせる、まるでベーグルのようなしっかりとした歯応え。表面白ゴマだらけ、畳イワシみたいな香ばしい匂いを嗅ぎつつがぶりとゆく。弾まないバンズの下はケチャ、トマ、サニーレタス、オニオン少々&薄っすら伸びる白いチーズは適量をわきまえたナイス隠し味。下にくるパティがこれまた安そうで質悪そうな見た目なんだけど、ところがコノ適度なワルが美味しいのだ!適度な肉汁、適度な粗さ――バーガーの肉はやはり最上質ではダメらしい――。パティの下はホースラディッシュのクリームか?(スペシャルハウスソースって言うのが何処かに挟まってる筈なんだが……)で、下のバンズ(heel)。見た目貧相……ところがベーグルのようにしっかりした食感はある種保存食的と言うか、乾物のイメージを伴いつつ、「カリフォルニア出身のスタッフによる本場のハンバーガー」とのことで、"彼(か)の地"にはこんなバーガーもあるのか……と妙に説得力のある味である――案外クセになるかも。付け合わせはポテトにケチャップがた〜っぷり!

 世界のビール約50種――しかも700円以下で飲めるのでビール好きはたまらない。料金前払い。ノーチャージ。根本的にはヒトの良い、おおらかなお店。BGM――ダンス系が小さく流れる中、民族楽器みたいな音色が重なり、さらにはオモテの喧騒も混ざり合って、イマイチ締まりはなかった。赤いライトが瞼に残る。

2005.5.28 Y.M

ボンハンバーガー

[大阪]
# 140

 7月31日――朝起きて愕然とした。まるで高地に来たような涼しさ、9月のように気の抜けた風の淋しさ――こんなの夏じゃない!立っているだけでジリジリするような、あの灼熱の夏を求めて、西へ西へと旅に出ることにした。

 8月4日――大阪に降り立つ。と、熱く重たい空気が全身を包み込んで、蒸し上げるようなこの不快感……これぞ我が求めていた夏!水を得た"魚"のように大阪の夏を回遊した。


●針中野

 地上3階、異様に高い高架上を走る近鉄南大阪線の針中野駅。店は今里筋に面した、わりと車通りの多い場所にあるのだが、一本入れば路地裏・下町風情。玄関先に大きなビニールプールを出して、頭から潜って遊ぶ男の子3人。そしてそれを2軒隣の玄関先から椅子に座って見つめる1人――監視員かキミは。

 「来週の金曜、営業してますか?」「してる……とおもう」――この店の主と初めて(電話で)した会話はこんな感じだった。店を訪ねた当日の2時間に亘る会話もずっとこんな感じ。もっと憎めない感じの好好爺が、渾身の力を振り絞ってどうにか生業を続けている……そんなイメージをしていたのが大間違い。事業拡大を常に志す、意欲的で開豁(かいかつ)なただの大阪のおっちゃんやった。

 大阪のおっちゃんはなかなか凹まんでぇ。「ココは商売には(場所が)向かない」と言う。何処ゝならもっとイケんのになぁ――。なら場所変えたらいいんじゃないですか?と訊けば「いや、2階が自宅やねん……」大阪のおっちゃんの愚痴には必ず言い訳が用意されている。


●チェーン本部

 オープンから28年。ひと頃は4店舗まで規模を拡大させていたが、どこも直営だったため――つまり、結局自分1人で全店の面倒を見ないといけないので――面倒臭くなり、今の規模に落ち着いた。以来何となく安穏と過ごしている……のではなくて、今なおチェーン展開あるいはFC展開を企図して止まない野心家である。それが証拠にオモテの看板には「チェーン本部」「看板取次店」と(だいぶ以前から)書かれている。ところでこの片足上げたキャラクター、ハンバーガーと言うよりチャイニーズな衣装の女の子が、両手に出前のどんぶり持ってるように見えてしょうがないのだけど(てか、看板自体そもそも中華料理屋風)、その辺のクレームもチェーン本部に回したらいいですか?

 "チェーン展開"という言葉が出たが、ココのご主人の考える店舗経営のスタイルは、大手チェーンのようなスタッフを何人も使ってというものでなく、店主1人で店を全て切り盛りして、きっちり売上げを出してゆける――そんな規模を基本としている。1人でいかに無理なく負担なく、破綻なく店を回せるか――。

 週1で休みをとるくらいなら定休日など作らず、3日続けて休みなさい。1日なんて休んだ気にならんやろ。休みなしがツライなら閉店の時間を早めなさい。気楽がイチバン、家族でやれたらイチバン……現に28年続けている人の、実のある言葉である。


●いっぺん食べてみ

 店内外ともファストフード風と言えばそんな造り。大半の椅子机は新しいものに替えられているようだが、1席だけファミレスにあるような背中合わせのシートがあって往時を偲ばせる。BGM――そんなモンなし。

 でお待ちかねのハンバーガー。今年の6月からメニューが一新。バーガー類13種、ホットサンド3種。ハンバーガー\220、チーズバーガー\250、人気マークのボンバーガーは\280。殆どのメニューが300円前後。とにかくどれも「いっぺん食べてみ」というので「一度に2つの味を楽しめるバーガー+バーガー+ドリンク(M)のセット!」という文字通りバーガー2個セットから、エビバーガー+ボンバーガー+ドリンク(M)の組み合わせ\700を。ドリンクは「オレンジにしとき」言うのでオレンジ(M)\170頼んだら、キンキンに冷えたスムージーだった……気持っちイイー!

 看板商品ボンバーガー。系統としてはソース一発の味で決めるタイプのバーガーである。一見よくある感じのライトオレンジなハンバーグソースは、中華のようにドロッとしたとろみが効き、スパイスがエラク加わって、単体で味わうとピリリと辛い。表面ツヤなし、ケシ・ゴマなし、裏面を強目に焼いたバンズ。ソースの下には細か〜く刻んだ……と言うよりフードプロセッサーで細かく砕いた(おろした)ような状態のオニオンとキャベツが来、マヨネーズが来、厚くはないがぷりんとした肉質のパティが来、乗せる前に水気をシャッとひと切りしたレタスが来て、下バン。

 あっつあつの特製ソースにバンズ+オニ&キャベ+パティが出会うと、辛さが程よく中和され、シャクシャクした心地好い歯応えが生まれて、独特な力強い味わいが形成される。案外な食べ応え。見た目のサイズのわりに満足度は高い。1個食べ終えて、さらに興味の湧いた向きは2個、3個……と違う種類を試してみるも良し。私の好みでは塩気の増すボンチーズバーガーよりも、レタスの水分で味が適度に丸くなるボンバーガーの方が、完成度はより高いように思う。

 バーガーにせよオレンジジュースにせよ、手間隙をかけ過ぎない適度な工夫で、それでもきっちりとオリジナリティを表現するという、極めて大阪的な合理主義に則っていて、作りが単純であろうが安かろうが、とにかく解りやすい美味しさがある。


●イワシを釣って鯛を待つ

 さて一見気楽にやってるようで、しかし事業拡大については意志も意欲も予定もちゃんとあって、現に私が訪ねた日の翌日、奇しくも平野のとある喫茶店でボンバーガーの取り扱いが始まるという――おぉ!実におめでたいタイミングだ。で、ご主人、その喫茶店の名前は?「知らん……」。

 経営戦略にも哲学がある。こちらから積極的に攻めかけるのでなく、ボンバーガーの戦法は「待つ」。もちろんただ待つのでなく、待ち方があって「イワシを釣って鯛を待つ」の作戦という――わかる?最初はイワシばかりかも知れないけど、いずれ大きな鯛がやって来る。イワシ拒めば鯛は来ず。イワシ拒まず、まして鯛も拒まず。店出すならマクドの近く。ま、気楽に行こ!東京でも流行るデ、アッハッハッ……と、店主の高笑いがこだまする。


― shop data ―
所在地:大阪府大阪市東住吉区湯里2丁目19-11
近鉄針中野駅歩10分 地図
TEL:06-6703-4835
オープン:1978年
営業時間:10:00〜22:00ぐらいまで
定休日:なし(要確認)

2006.8.9 Y.M

RACCOS BURGER

[岡山]
# 141

●備前岡山

 67万都市、岡山。城下町の町割りが今も効いていて、街は整然として明るい。特に市電が走る桃太郎大通りは、まさしく桃から生まれた桃太郎の桃が如く、空に向かってパッカと大きく開けていて爽快だ。

 古い建物が多い。こんな古いビルまさか使ってないよね……という建物の2階の窓にぽっと明かりが灯っていて、階段の上り口にダイニングバーのメニューが出ていたりする。ところが昭和30〜40年代の建物を今なお使ったこうしたお店は、時代がちょうどひと巡りしてイマ見るとちょっとオシャレに映るのである。

 しかも最近の安っぽい造りの建築が街にさほど混ざり込んでいないので、建物それぞれの趣きを周囲のそうした無粋な建築によって邪魔されることなく、じっくりと味わうことができる。街としてはこれくらいがちょうど落ち着きがあってよいサイズなのではないだろうか。

 さらに不思議なことに、岡山には街の大きさのわりにカフェやバーが多い。格式や楽しみ方の異なる様々なバーが2時、3時までパラパラと開いているので、夜が更けても街はどこか明るく賑わっている。



●Idol Punch

 パンク/ハードコアバンド、Idol Punchのヴォーカリスト、Racco氏の店。ラッコ氏のバーガーショップだからラコスバーガー

 氏もハンバーガーには目がなくて、首都圏でライヴをするたびアレやコレやと食べるのが何よりの楽しみ。今まで何処行かれました?と訊いたら、レギュラーで出演する「ハコ」の所在地の関係から、横須賀のハニービー、三軒茶屋のベイカーバウンス、そしてクア・アイナなどの名が挙げられた。

 自身運転するクルマで早朝アチラに着くので、他のメンバーが熟睡しているのを良いことに、お目当てのバーガーショップに乗り付けて、起き抜けの朝食がハンバーガーと。で、ステージの準備……およそこんな手口らしい。まぁハンドルを委ねてしまっている以上、文句は言えぬ状況ではある。

 でそうこうするうち「岡山でも東京のようなハンバーガー食べられたらなぁ」と思うようになり、「なら自分で店始めちゃおうか」と思い募り、で本当に始めちゃったと。思い立ったが吉日の行動力には只々拍手!


●先駆

 岡山市民67万を前に敢えて言うが、氏によれば「岡山は食べ物は3年遅れている」。それが証拠に、岡山に初めてフレッシュネスバーガーがオープンしたのはラコスバーガーよりも後のことなのである。

 ラコスバーガーのオープンは'05年10月。それまで岡山にはファストフード以外の、カフェないしはダイナーなお店で食べるハンバーガーというものは存在しなかった……と言い切ってしまうのは危険なので断言はしないが、ともかく「非ファストフードなハンバーガー」というものを感覚として持ち合わせていないというのが昨年10月、ラコスバーガースタート時点の状況である。


●配慮

 その辺りの「認識のズレ」に対する配慮がメニューから見てとれる。

 ハンバーガーはすべて500円――500円上限説に見事当てはまっているのだが、いきなり700円、800円するバーガーを見せて引かれてしまっても……とRacco氏はまずそれを恐れた。

 入り口で「高すぎる」と決め付けられては、味の良し悪しに触れてもらうことすら適わないわけで、とにかく敷居を低くしてバーガーとの出会いのきっかけをなるべく広く持ってもらおうという、そんなアプローチから値段とサイズを抑えたわけである。

 しかし内容は充実している。アボカドの入ったラコスバーガーからレンコンの唐揚げの入ったフジヤマバーガーまでバーガー類9種。単なるトッピングの足し算でなくスパム、チリチーズ、シュリンプサラダ……と全て方向の違うバーガーを9つ並べ、実にバラエティに富んだメニューになっている。


●オイシイ要素

 ラコスバーガー\500。見せたいものが全て見えてるこの見た目!上バンの角度が絶妙。バンズは表面ツヤなしの白ゴマ、裏もオモテも軽く焼いてある。中はアボカド、マヨ、トマ、シュレッドオニ、チー、ケチャ、パティ、グリーンリーフ、で下バン。HEINZ のケチャップを中心とした構成。

 レタスはクア・アイナの影響か、ギザギザのグリーンリーフを使っているが、これが珍しく奏功しており、ジョリジョリとしたアクセントが機能している。パティは安定した存在感で、これだけの野菜陣がひしめく中、それらを巧く引き立てる役回り。白いチーズはモッツァレラか、これまた野菜との相性が良い。

 アボカドの入ったバーガーは久々だったが、独特のまろみが巧く効いており、バンズの甘味がさらに全体をまろやかにまとめ上げて、後を引く良い味だった。500円にしてオイシイ要素がすべて揃った実に実に贅沢なバーガー。何より半端ない愛情と熱意の感じられる一品で、先に挙げた首都圏各店と比べても決して引けを取らない。毎朝切断する北海道産メークインのポテトと手作りピクルスのセットで\750。日替わりのスープが\350――とにかく安い!BGM――ジャズヴォーカルが気持ちいいナ……と思ったらUAだった。


●磨屋町

 場所は西川にかかる野殿橋という橋を渡り、磨屋町(とぎやちょう)。この辺りは「軽く飲む界隈」という。

 駐車場の角にあった倉庫"のような"物件を改装。店内木造、柱と天井をペールグリーンに塗り(この辺フレッシュネス的。ないしはベイカーバウンス的)、壁は白。窓は滑り出し窓。カフェを飛び越して洋服屋さんなテイストで、こげ茶のカウンター周りに至っては食料品がどっさり並び、グローサリーな雰囲気。

 純米国風インテリアかと思ったら、一番奥の窓には例のレトロな型板ガラスが違和感無く使われていて、訊けばココだけ「元からあった窓」だという。オモテの黒とミントの縞柄がナイスなオーニング(日よけテント)が、左右対称な外観を強調していてこれまた見事。流石ミュージシャン!お店然りバーガー然り、とにかく見せ方が巧い。



●黄金の方程式

 ラッコさんが始めたラコスバーガー。しかし如何にバーガーを出す店とは言え、店名は「ラコスカフェ」でも「ラコスダイナー」でも良かったワケである。むしろその方が的が広く、商売的には確実だろう。都内各店を見渡してみても「バーガー」と付く店は実は皆無に近い。それをまた何でラコスバーガー?と訊けば、返ってきた答えは「やっぱハンバーガーでしょ!」……コレだ!主張鮮明、趣旨明快!

 氏とは「ハンバーガーにはビール!」という点でも意見が一致。

 この黄金の方程式を一度覚えてしまうと相当クセになるのだが、しかし岡山の人たちはそうした楽しみ方を未だ知らないワケである。なので氏は今後、ハンバーガーの楽しみ方や醍醐味を日々広め、伝えながらお店を営業するという、そうした段階を暫し地道に続けてゆくことになるだろう。そんな次第なので私からも是非一言……岡山市民67万人に告ぐ――ハンバーガーにビールは最高っ!


― shop data ―
所在地:岡山県岡山市磨屋町5-19
JR岡山駅歩10分 地図
TEL:086-221-5351
オープン:2005年10月
営業時間:10:00〜24:00
定休日:不定休(要確認)

2006.8.12 Y.M

ゴッドバーガー

[広島]
# 142

 山陽本線、広島駅の隣――横川(よこがわ)駅。この横川を起点にJR可部(かべ)という支線が分かれている。

●横川

 つい数年前までは三段峡が終点だったのが、今は可部より向こうは廃線になってしまった。ちなみに可部線の起点は横川であるが、列車はすべて広島駅始発となっている。広電も乗り入れる横川駅は、ちょっとレトロを漂わせた大きな緑色のアーケードが不必要なまでに立派で、全く予備知識無く行った私は「なんでこんなに……?」とつい云われなどキョロキョロと探してしまった。

 その立派な駅から徒歩約1分、横川に30年続くハンバーガーショップがこのゴッドバーガーである。見た目は中華料理屋風とも言ってよい緑のスレート屋根の店舗で、入ると少し古風な喫茶店風(最近改装とのこと)。白壁に掛かるルノワールのジグソーパズルにクラシックのBGMは、それを意識したものと思ってよいだろうか。この日は土曜だったこともあり、午前中からお客さん多数。

 ハンバーガーショップに歴史アリ。その歴史について触れることは即ち、社長である神川氏の履歴を辿るのに等しい。聴けば実に興味深いハンバーガー人生を歩んでこられた方である。その辺りについて少し書いてみようと思う。


●ガリバー

 まずパン屋の息子だった――この時点で既に運命づけられていたように思う。

 小学生の頃には、名字からとったガリバー(god + river)なるレストランをやろうと夢見ていたが、決まっていたのは名前だけで、具体的にどんな料理を出すかまではイメージに無かった――ミュージシャンを目指す少年が、デビューアルバムのタイトルだけ決めているのと同じノリ。で、パン屋の息子なので、長じて東京は麹町のキムラヤに修行に出たが、あまりの厳しさに夜逃げ(←社長ご本人の言葉です)。

 大学に進学。4年のとき、マクドナルドが日本にちょうど上陸するかしないかの頃で(日本1号店オープン'71年7月)、このニュースに触れてひらめいた――そうだ!ハンバーガーだ!ついにガリバーで出すべきメニューが決まったわけである。

 でマックへの就職を志望。この社長の凄いのは、まだ海外旅行などする人の殆ど居なかったであろう当時、グレイファウンドに揺られて西から東、また西へと夏休みにアメリカ横断旅行をしてのけたことである。

●モスバーガー横川店

 マックには3年弱。辞めて次になったのがなんと!モスバーガー第30号店・横川店のオーナーだった。モスは'72年3月に東京の成増(なります)に実験店オープン。当時は自転車操業の真っ只中、マニュアルなんてモノは無く、創業者自ら材料の発注をかけるテンヤワンヤな時期だったという。

 '74年7月19日、モスバーガー横川店オープン。ところが1年ちょっとでコレも辞めてしまう。そんなに簡単にFCから抜けられるのかとも思うが、少年時代よりレストラン経営を夢見ていたパン屋の息子は「今こそ」と独立開業を決意。'75年11月1日、ついにゴッドバーガーが誕生する。

 場所はモス横川店の所在地に同じ。つまりゴッドバーガーは最初モスバーガーだったのである。温めていた「ガリバー」という店名は既に他の人によって商標登録されてしまっており、使えず。代わりに名字より1字だけとり「ゴッドバーガー」とした――またとないネーミングだと思う。


現在のゴッドバーガー(2006.8.5撮影)

 しかしマック、モスと2大バーガー店に勤めたからとて、すぐさま自分の店が始められるわけではない。パティにせよソースにせよ、現場に送られて来るのはすべて調理済みの材料であって、言わばこれらは元となるレシピのコピーである。コピーの原本は隠されている。まして経営学を学んでこの道に入った社長には、現場の実際の作り方などさっぱり解らない。そこで今度は兄の支援。兄の友人が営むレストランに料理の基礎を習いに行った。


●お好み焼き

 以来今年で31年。バーガー類15種は30年間の試行錯誤の結晶である。ロイヤルゴッドバーガー、レギュラー\550。レタス・肉二枚のダブルは\1,000、レタス・肉二倍・焼き玉子のジャンボなら\1,100。お供にアイスカフェオレ\250。「おいしいものが好きですか?」のコピーの入ったパックの上からもう1枚パックで包んで二重に。

 バンズは表面ツヤなし、ケシもゴマもなしのドーム型。サウザンのような色付きマヨ、トマ、レタ、千切りキャベ、チー、玉子、ベーコン、パティ、シュレッドオニ、下バン。これら具材を混然一体と食べる感じは佐世保に近いようにも感じたが――玉子使ってるし――左にあらず、ゴッドバーガーのルーツは広島らしくお好み焼きなのである。


●原点回帰の一品

 社長はお好みが大好きだった。日本マクドナルドの創業者・藤田田氏の「食は文化である」という言葉を聞いて「その土地のものを出さにゃいかんな」と思い、地元広島のテイストをハンバーガーに加えるアレンジを考えたのである。

 「いろんなもの見て、そこがやっていないものをやりたい」――アメリカを横断しても、マックとモスで働いても、ゴッドバーガーはそれらの模倣の積み上げではない。10年前に出来たロイヤルゴッドバーガーは、大好きなお好み焼きのテイストが際立つ、云わば原点回帰の一品である。「サウザンのような色付きマヨ」は、実はマヨネーズにお好みソースを加えた広島風。キャベツの千切り玉子が入っているのも、なるほど「そういうこと」である。

 パティはハンバーグ。表面にテリヤキソース(スイート)が塗られ、噛むとサックリ割ける食感。レタスはグリーンリーフ。濃い目のチーズもたっぷり加わり、全ての食材が混ざり合うことによって勢いの生まれる逞しいバーガーである。これら具材を堂々と支える立派なバンズの存在も大きい。

 そのバンズ、当初は3軒隣の実家から焼き立てを調達していたが、パン屋の父は引退し、今は他のパン店に依頼している。ただ今でも父の作るバンズには思慕の念と言ってよいほどの相当な想いがあるようで、社長の中では「まぼろしの逸品」となっているそうである。父然り兄然り(この日、娘さんも店にいた)、家族に支えられながら30年続けてきた、そんな社長の家族を大切に思う温かさは、どこか店の空気からも伝わってくるように感じられた。


●更なる最高傑作を

 さてその社長、最近こんな心配をしている――僕はお好みは大好きだけど、しかしこどもの頃食べたお好みと今食べるものとでは味が全然違う。当時と比べ確かに調理の技術は向上したかも知れないが、肝心なのは素材そのものの味である。野菜ひとつひとつの旨味が今と昔ではまるで違う。本当に美味しいものは、もう何処にもないような気がする――

 環境破壊や大量生産・大量消費という社会構造の大きな変化が、事実食材から美味しさを奪ったのかも知れない。私が生まれるより以前、今よりずっと美味しい野菜が青果店の軒先に事実並んでいたのかも知れない。仮に事実はそうだとしても、しかし「最高のものはもう作れない」と諦めてかかるにはまだまだ早いように思いますよ、社長。そんなコト言わず、マック以来バーガー歴34年、藤田田・櫻田慧という日本バーガー界のビックネーム2人に直接会った経歴を持つ業界の大ベテランには、ロイヤルゴッドを上回る更なる最高傑作を是非是非作り出していただきますよう、切に切にお願いする次第であります。「最高のものはもう作れない」かどうか、それは...GOD ONLY KNOWS

― shop data ―
所在地:広島県広島市西区横川町3-10-16
JR・広電 横川駅歩3分 地図
TEL:082-232-2608
オープン:1975年11月
* 営業時間 *
平日:9:00〜22:00
土日祝:9:00〜20:00(売切れ次第close有り)
定休日:火曜日(要確認)

2006.8.13 Y.M

ピープル 加古川店

[加古川]
# 144

●導入――上総大多喜(かずさおおたき)

 房総半島、いすみ鉄道大多喜(おおたき)駅の駅前にハンバーガーを置いている店を見つけたことがある。たこ焼き屋の様な駄菓子屋の様な店で、2階は居酒屋の様な。その日店はやっていたが、しかしバーガーは食べ損ねた――お店を守るママさんが何かと理由をつけて作ってくれなかったのである(作れないのでは――とは友人の見解)。

 帰宅後、諦め悪くネットで調べたら、問題の店の代わりにマックスバーガーという名のバーガーショップの情報を見つけた――アレ?マックスコーヒーも千葉だっけ?同じく房総の南端、館山にかつてあったバーガー店だが「マクドナルドやロッテリアのオープンにともない店を閉めざるを得なかった」。で、そんなマックスバーガーの思い出を引き合いに、ご当地バーガーの鑑としてそのページで語られていたのが、播州加古川にあるコノ店だった――このページを見つけなければ行くことはなかったろう、多謝!


大多喜駅前の某店


●寺家町(じけまち)

 この日加古川は花火大会。駅前にはロックフェスティバルでもあるんじゃないかというほどの大量の鉄柵が昼間のうちから運び込まれて何だか物々しいが、商店街ベルデモールに入れば、歴史ある街らしいのんびりした風が吹いて、36度の猛暑も心なし薄らいで感じられる。国道2号線に当る手前で折れて、寺家町(じけまち)商店街のアーケードの下を行けば、店までの行程のほぼ7割を直射日光に美肌を晒さず進むことができる――紫外線は天敵ですから。問題の県道18号に行き当たったところで2号線の方を向くと、右手前方に日に焼けた赤いテント屋根を捕えることができる。


●1日1,000個

 今年で31年目。開業'75年というから広島のゴッドバーガーと同期。入り口のガラス扉こそ面白いデザインだが、店内は壁・天井を黄色く塗った総板張り。その黄色い天井には不必要なまでに多くの電球が付けられていて、昼なお明るい。一応壁にスピーカーはあるのだけども、BGMはナシ――それがちょと気まずい。そしてカウンター周りには広告の裏に書いたメニューが天井から床までびーっしり!

 聞けばこのメニュー、上のものほど古く、年代を経て下へ下へと足されていったそうである。なので一番上に貼ってあるのはなんと'75年、開業当時のメニュー。ハンバーガー\100、ミックスバーガー\100、マヨネバーガー\100、チーズバーガー\150、2段バーガー\200。しかもコノ値段、開業以来一度たりとも上げたことが無い……えーっ!!意地でも上げないそうである。

 31年前、父ちゃんが仕事を辞めて始めた。当時マクドナルドはまだ主要都市にしかない状況で、その様子を見るうち自分もやってみようかなと。なのでピープルは加古川初のハンバーガーショップだった可能性が極めて高い。ボンハンバーガーに同じく、一時は加古川周辺に5店舗まで店を増やしたが「父ちゃんは人を使うのが苦手だった」ので、結局いまの1店に落ち着いた。「加古川店」と付くのはその名残である。20年前――つまり80年代半ばが最盛期で「1日1,000個売った日もあった」。近所の中高生を中心に大ブレイク。学校が終わると店の前は黒山の人だかりで、見るも恐ろしいほどだったという。

●システム

 そんな半狂乱な日々の中、注文は客が自分で紙に書き、カウンターに差し出す――という今の注文方式が確立された。なにしろ注文を受ける人手が居ないので、その役割は客に負ってもらうと。これなら注文を取る手間が省け、注文受けた・受けないの混乱も極力減らすことができる。

 カウンターの中には、注文が上がったとき客である生徒たちの名を呼び出すのに使ったマイクが今でもぶら下がっている。私もこのシステムに従い、わら半紙をハサミで切って作った用紙にチビた鉛筆で注文を書き、カウンター越しにおばちゃんに手渡した。するとおばちゃん、トマトバーガー チーズ入りは……300円、アイスレモンティーは……150円と、何も見ずに値段を書き入れる――このシステム、頭使うよぉ〜


●ゆで卵

 トマトバーガー チーズ入り\300、使い減りしないステンレス製の皿に乗り。バンズは第一パン。表面ケシもゴマもなし。ケチャ、シュレオニ、トマ、レタ、パティはハンバーグ1/2、チーズはプロセスの塊か、タマゴ、マヨネ、下バン。食後、おばちゃんに話を聴きながらキッチンの様子を少し覗かせてもらったら、さすが1日1,000個さばいた店だけあって作り方も実に効率的で、注文の入る前にある程度のところまで作り置きしておくのである。バンズは袋を開けて大きなバットの上に並べておく。パティは焼いて半分に切っておく。そしてゆで卵とともにバンズの上に乗せておく。どのバーガーにも進めるこのベーシックな状態で注文を待つ――。

 そんなことなので肉もそれなりだし、表裏焼かないバンズはややウェットな食感で覇気こそ無いのだけれど、しかしまぁこんなもんかな……と思って食べていると、トマトにチーズ、ケチャップがうまく回って、おぉコレは!と思う瞬間が何度かあった。

 ひとつ具材の強い個性で引っ張るのでなく、トータルのバランスや具材同士の融合で食べさせるバーガー。作り方や見かけによらず、やってることは意外と高次元。見た目からも非常に手馴れた、簡潔によくまとまった印象を受ける。さすが30年のベテラン、やることに無理がない、ソツがない。

 トマトバーガーの名のとおり、トマトがきっちり主役の存在を主張している点も素晴らしい(トマトマックグランにソレが出来たか――)。ツルンとした卵の白身の感じが焼かないバンズによく合っていて、案外とイケることを今回知ったが、そもそもバーガーにゆで卵を使うこと自体珍しい。しかしコノ店ではゆで卵はどのバーガーにも入る"基本"である。


●悪さの思い出

 今は夜の部に回る父ちゃんには今回お会いすることはできなかったが、生意気盛りの悪ガキ……と言う言い方はやめて悪童と呼ぼう……悪童相手に怒るときは真剣に怒る、父親のように親身な店主とお聴きした。横入いりだとか、喧嘩だとか、壁壊しただとか、そりゃあいろいろあったでしょ。店の外に置いてあったバンズに上から全部穴を開けたアホが居たというが、そのときは本気で怒ったそう……って当たり前や。何をすんねんな。高校生時分って、どうしてそんな下らんことしか思い付かないんだろ。

 まあそんな悪童たちも長じて社会に出るようになり、ある者は加古川を離れ、それが何年かぶりに戻ってみると、昔悪さして叱られた店がまだやってると。懐かしくて思わず入ってみると、あのときのおっちゃんおばちゃんがまだハンバーガー焼いてる……。加古川に育った彼らの故郷のような存在が、このピープルなのである。



●これから

 しかし県道18号の拡張工事に伴い、ついに今年'06年12月31日、ひとつの節目を迎えることになった。12月31日をもって今の店を閉めて立ち退く――問題は、場所を変えて店を続けるかどうか。「ぜひ続けて下さい」と私たちが言うのは容易いが、しかし骨身を砕くご夫婦の努力を知れば、そう軽々しく言うのもどうかと考えてしまう。続けること自体決して生やさしいことではないのだ。

 しかしおばちゃんからは「店と一生をともにする」と並々ならぬ決意を聴かせていただいた。みんなの声に後押しされて、ぜひやりたいと言うのである。

 今より狭くなっても営業時間が短くなっても構いません。出来る条件の中で出来る範囲のことをされるので、みんなきっと十分納得し歓迎してくれる筈です。どんな形であれ大好きだった店がずっと続いていると知ったとき、それだけでどんなに嬉しいことでしょうか。しかも焼いているのはあのおっちゃんおばちゃんなのだから、これ以上望むべくもないでしょう。30年分の少年少女の心の拠り所となったバーガー店は、今日も加古川に続く。

※その後ですが、従来の店舗ヨコに仮設店舗を建てて営業継続――との"加古川市民"様からの情報です(2007.4.18)

当時の shop data ―
所在地:兵庫県加古川市加古川町寺家町23-1
JR加古川駅歩13分 地図
TEL:0794-24-9039
オープン:1975年
営業時間:11:30〜27:30
定休日:なし(要確認)

2006.8.19 Y.M

EBISU BURGER

[甲子園]
# 145

 8月6日――夏の全国高校野球大会の開幕日。阪神電車甲子園駅に降りると予想通りの人出である。第3試合、大会きっての好カード(てか、いきなり当るとは……もうちょっと大会的盛り上がりというものを考慮に入れられぬモンかね)横浜−大阪桐蔭戦が、夕闇迫る甲子園球場で熱く繰り広げられているのを尻目に、そのお隣、かつて甲子園パークだった敷地跡にできたららぽーと甲子園へと足を向けた。

 ららぽーと甲子園――2階建ての建物が船橋同様、延々ヨコに長く延び、専門店街の果ての果てにヨーカドー。これくらい長いと何か乗り物が欲しくなる。確かに長大ではあったが、造りはイマドキの手軽い感じ。曲がりくねった建物の中ほどに在るフードコートガーテンパーティーの中にエビスバーガー。このフードコートもまた広大で、丸テーブルを赤と白の籐椅子で囲む姿はよく言えばリゾートホテルのロビー的趣き。窓が大きくとってあり、明るく開放的な感じが心地好さそうなのだが、しかし所詮はフードコートであることを忘れてはならない。BGMはダンスにブラック。でこの夏場、18時からはフードコートがビアホールに早変わり!ビアホール甲子園と称し……と言っても、別にビール各社が何かを競うワケではない。この場合、純粋に地名を表しているだけであり、そう考えると「甲子園」という言葉には、いつしか「競い合う」という意味が込められるようになったのだと、大会初日にしてそんなことを思ったものだ。

 さてエビスバーガー。2004年11月オープン。「「グルメ・バーガーの品質をファースト・フードに」をモットーに、日本初の「グルメ・ファースト・バーガー」を皆様に提供していきたい」がコンセプト。これは……要は1店舗きりのお店が手間隙かけてコストかけて作り上げることなら出来るが、それを全国チェーンの規模に遍く落とし込もうとすると、商品イメージより大きくレベルダウン&スケールダウンしたものしか出来ず、うまく行かないという、大手が試みて悉く失敗している極めて難しい線に挑もう――ということである。大手の場合、ソースなどは工場で作ったものをそのまま使うので化学調味料的ニオイが抜けず、どう足掻いても作り込まれた感じの貧弱なスケールを脱け出せない。とみに最近私は外食の際、この「パッケージ感」とも呼ぶべきものがすごく気になっていて、如何に店構えがオシャレで居心地の好い店に入ろうとも、二次加工的なものが出て来るとヒドク損した気にさせられるのである。まぁしかしそれも大手ゆえと割り切ろう。エビスバーガーはまだ1店だけだから、将来の展開を見据えつつも割りと制約なく、好きにメニューを考えられる自由が残されている。ちなみにエベッさんがやろうとしているのは「グルメバーガーの低価格化」であり、その点上に挙げた「ファストフードの背伸び」の例とは決定的に違うのだが、しかし食べる側からすれば下が上を見ようが上が下を見ようが、どっちにせよ同じことなので、ま、同じと。

 黒地に金文字でEB……エディバウアーじゃないよ。店舗からメニューのデザインからプロフェッショナルがきっちり考えてデザインした風で、その気になればいつでも2店目3店目と展開させてゆけそうな、整った感じがある。現在最もチェーン展開に近そうなバーガーショップだ。そもそも「エビスバーガー」という名前自体、美味しそうな響きを持っている。トレードカラーは悉く。黒い帽子に白いシャツというユニフォーム姿も締まって見える。バーガー類10種、殆どが300円台。そのうち牛肉のパティを使っているのは僅か3種。注文するとフードコートの定番、ブザーが渡される。

 エビスバーガー\390、お供にアイスカフェラテ\290。バンズは上も下も白ゴマだらけ。エリックス似……と思ったら、あちらはケシの実。裏コゲ目。中はマヨ、レタ、トマ、チー、パティ、ケチャ、下バン。パティはゆるめ、そして甘辛い。いや、全体に調味料の甘辛さばかりが先に立って、トマト、チーズ、レタスの味が活きてこない。これだけ味が強いと人の好みも如実に別れるだろう。ファストフードというからにはある程度普遍的な味付けが要求されると思うのだが、今のままだと個性や好みを完全に越えてしまっている。ゴッドの社長も言う通り、美味しいバーガーは味付け云々よりまず素材の善し悪しで決まる。低価格に抑えた時点で自然その辺も「それなり」になるワケで、では素材の良さで勝負できないとなれば、次は味付け勝負。あらゆる食材の味を全てぶっ飛ばしてしまうくらい強烈な味を付けてしまえば、注意はそっちに向いて個々の素材の弱さは紛れる。カレーが良い例。しかし近年ブームのグルメバーガー(という言葉は私は嫌いなのだが)は、ひとつひとつ優れた質の食材を、しかもバランスよく組み上げて初めて成立する――といったものであって、決して強引なソース使いで片を付けてしまうような乱暴な食べ物ではない。なのでソース一発で「グルメ」とは名乗り難いだろう。ないしはパティならパティと、どこか一点に集中する勝負の仕方か……。何にせよお店のカラー同様、もう少しシャープに狙いを絞り込んで行った方が良い気はする。あと、メニューの写真と実際の具材の乗せ方の順番が明らかに違っているというのもどうかと……。

 ところでエビスバーガーの名前、日本のえびす信仰発祥の地、西宮に1号店がオープンしたことから付けられている……とサイトにはあるのだけれど、経営者である有限会社ウィンウィンアソシエイツは本社所在地東京都渋谷区恵比寿……むしろそっち?他にも恵比寿に「オープニングカフェ」、汐留に「ジャパニーズベントー」を直営しており、実は東京――なお店なのでありました。

2006.8.20 Y.M

AUNTY-MEE BURGER

[大津]
# 146

 いよいよ問題児の登場だ。これまで6店、今回の旅の成果を渾身の力を注いで←ウソ。真夏の体力の落ち切ったさ中、息も絶え絶えどーにか書き連ねてきたが、その間も「アンティーミーどうしよ……」と、コノ店をどう書くかということが常に頭から離れなかった。それくらい始終悩んでいたのである。悩んだ末、コノお店にはやはり真っ向から当たるのが正解ではないかと、今はそう心を決め、以下臨むことにした。

 京阪石山坂本線南滋賀滋賀里の間。JR湖西線西大津でも良いのだが、そちらの方が少し歩く模様。ホントいい場所に在る。湖畔とまではゆかぬが、叡山の裾野が湖に向かって落ちてゆく傾斜の途中に在って、道を挟んだ向かいは緑鮮やかな田んぼ。この一帯、古来稲作地帯として知られるが、近年は宅地化が進み、初め「田んぼの中に住宅」だったのが、一部逆転して「住宅の間に田んぼ」、それもエラク本気な水田が家と家の間を埋めるという、一風変わった光景が目にされる。緑まばゆい水田を目の前に黄色いキッチンカーと、その上を囲うように納屋のような、或いは野菜直売所のような小屋が建っている。コレこそアンティーミーバーガー。この小屋、全部ご主人の手造り。農家である父上の畑の一角を借りて建てた。なので小屋の裏には大豆が植わっている。元々正面全開な小屋なのだが、季節柄、二方の窓も開け放てば(残る一方は車)、こんな真夏の昼下がりでも水田を渡る涼し〜い風が小屋の中をすり抜けて気持ちイイ〜ったら!シリシリ鳴く蝉の声にキッチンカーから洩れるジュージュー鉄板の音……そうキャンプに来たような気分。小屋には大きなテーブルひとつ。相席で座ったお客さん同士自然と会話の始まる、実に和やいだスローな空気だ。

 農家の息子であるご主人。独りで何かしてみたかったのが、6年ほど前、仕事でよく出ていた東京で「ハンバーガー」「移動販売車」という2つのキーワードを目にし、コレや!とついに「何か」を見つける。'03年オープン。最初は車のみ。現在の小屋はお客さんの要望のまま、イートインの規模を大きくしていった結果という。火が点くまでに5年はかかると見ていたが、開業2年目の昨年辺りから一気に客が増え始め、今では開店2時間で売り切れること暫し。本当はアメ車のもっと大きいのが良かったと言う車は、これまたご主人自ら黄色く塗ってなかなかの愛らしさ。キッチンカーと言えば戸頭のコチラも黄色。当初「イベント等に出張しやすいように」移動販売車を考えていたのに、常連のたくさん出来た今では、かえって「動きたくない」と。この小さな車の中でバーガーを焼くワケだが、腰を屈めるぐらいでは収まらぬ狭さ。頭で擦れて、鉄板の真上は天井の塗装がすっかり剥げている。

 さてここからがコノ店の本領。まずメニューが解りづらい。訊けば「わざとぱっと見て解りにくいメニューにしている」。故に開業3週目から注文のある度30分、メニューについての説明を開始。さすがに去年の夏に封印したが、しかし補足説明必須の不便なメニューを敢えて使い続けるのは、特に「非ファストフードなハンバーガーは初めて」という人のため、その導入の良ききっかけとなれば……という作り手の熱い想いから来ていることなのであるが、しかし……説明封印されててよかった!!私の場合、仕事終えた後、空腹も絶頂の、指先まで酸素が行き渡らないようなフラッフラな状態でお店に転がり込むことが多いので、バーガー食べるときは大概がアタマ空っぽ、放心状態なワケですよ。そんな状態で30分、何聴かされたって馬耳東風……。てか、こんなに頭使わない食事もそう無いのですよ。ガバーッと素手で掴んで、大口開けてガブーッとゆけばイイんだから、何から順に食べよかな……なんて頭さえ使う必要は無いのです。それを目一杯アタマでっかちにさしてから食べさせてどうすんの?道具使わず口で直――というダイレクトな食べ方をするハンバーガーは、極めて感覚的な食べ物であると私は思っているので、30分の前説で頭ん中パンパンにさすよりは、お腹ペコペコで感覚が研ぎ澄まされてる方が、バーガー的味わい方としてより適当なように思う。なので言葉無用!封印して正解!……というのが私の意見。とは言え土地々々でいろいろと事情もあると思いますから、ま、その辺りいい塩梅に。

 それでもお聴した話をまとめると、農家の息子である上、中央市場の八百屋で働いていた経歴と京都市内の居酒屋でチーフを務めていた経歴を持つご主人、素材に対する探究心は殊更に強い。初めての客に最もシンプルなレギュラー\500から食べるよう薦めるのも「美味しいごはんでつくるおにぎりのように、シンプルこそ一番!」という信念に基づいてのこと。そのレギュラー、アルミホイルに焼き芋状にくるまれて登場(今回の旅で2度目)。バンズは唐崎のベーカリーに特注。意見を交わしながら理想のものを作っていった。表面何もナシ、ふっかりドーム型で気泡大きく、ややドライな食感。もう少しウェットな方が私は食べやすい。中はマス&ケチャ、水分少な目・締まった味のピクルスは全体を繋ぐ絶妙なポジション。国産黒毛和牛使用のパティは、みじん切りのタマネギを少し混ぜ、食感に柔らかさを出している。その下に千切ったレタス、そして下バン――以上、ご主人が作りながらしてくれるトークの内容を基に。確かにシンプルではあるが、これでゆくとマス&ケチャがやや勝ってしまうのと、トマトが居ないため水分が恋しくなるのとがやや難だが、このバンズとパティの感じなら牛乳カフェラテが抜群に合いそうだ。

 素材について食について、より精通した人であればこそシンプルに「素材で勝負!」というのはきっとやってみたいことだとは思うのだが、しかし世間は必ずしもそれを求めていないというのが、作る側と食べる側の意識の差。今のバーガーブーム、求められるのはアゴが外れそうなくらいビッグなアメリカンサイズであり、「パンと肉だけ」という様な、作り手として相当に想いを込めたであろうバーガーを仮に出したとしても、殆ど見向きもされないというのが現実だろう。とは言えアメリカンサイズなバーガーが人気なのも一時の流れかも知れず、あるいは数年先、シンプルなバーガーが注目される時代が来るやも知れない。私は十分有り得ることと思う。そんな中、コノ店は今売れに売れている。そうした意味ではコノ店、時代を一歩先取りしているのかも知れない。加えて現在「素材の大切さ」を心より唱える店自体、ことバーガーにおいて余り無い様に思うので、是非このまま一路邁進して行っていただけたらと、心より応援申し上げる次第にございます。但し……どんなにピンで素晴らしい食材であろうと、バンズの間に挟んで食べるのがハンバーガーの定義であり、また個々に優れたそれら素材をバランスよく順序よく積み上げることにより、相乗的な美味しさの生まれる食べ物こそがバーガーなので、ただ「素材勝負!」「余計な味は加えない」という一方向でのみ括るのには無理があると思う。積み上げたときのことについても、考えをひと通り巡らせておく必要はあるだろう。あと一つ、真に美味しい素材なら言葉でなく舌で味わえるよう計らうべき。と言うのも「天然酵母」「国産黒毛和牛」と聞くだけで美味しく思えてしまうくらい、我々の思考はいい加減なものだからである。折角の美味しい素材が、そのものの味よりも言葉の響きで美味しく錯覚されるとしたなら、それはお店にとってもむしろ幸せなことではないだろう……って上記2語をNGワードにせよって意味じゃないですからね。

 こんなにもムキになって返したのは、如何にご主人が本心で語りかけてきたかということの裏返しだろうと思っている。コノ店の魅力はお客さんとの心よりの付き合いと、よろず相談所のような懐の広さにもある。この日も12時過ぎ、開店から僅か2時間でSOLD OUTになったのだが、その後も訪れるお客さんに「ごめんなさいね、また今度ね」と夫婦して一生懸命頭を下げる姿がいつまでも続いた。……こんな店ないよ。食材持込み自由、そしてなんと!飲み物持込み自由という型破りな業界の革命児。琵琶湖から寄せるのんびりスローな風を受けて、何ともスローライフな楽しみを満喫できる、至上のスローフード


― shop data ―
所在地:滋賀県大津市見世1-11-21
京阪石山坂本線 南滋賀・滋賀里駅歩10分 地図
TEL:080-3761-8480
URL:http://www.cable-net.ne.jp/user/uncle-mee/
オープン:2003年8月
* 営業時間 *
月〜土:11:30〜22:00
日曜日:11:30〜18:00
定休日:火曜日・水曜日(要確認)

2006.8.21 Y.M

LOCO-BURGER

[名古屋]
# 152

 大須は、東京で言えば浅草とアメ横と秋葉原をミックスしたような町だろうか。大須観音を中心に(と言っても界隈の最西端に位置するのだが)、いくつもの社寺が一帯に点在して在り、商店街のアーケードがそれらを縦横に結んでいる。土産物屋とか呉服屋とか洋品店とか玩具店とか珈琲店とか、それら古株の間々に若向きの服屋とか雑貨屋とかフィギュアを扱う店とかカフェとかが混ざり込んで、新旧綯(な)い交ぜ。しかし若いパワーがボーンと全開炸裂しているでもなく、この歴史ある街並みの湿気の中にうまく――かどうかは分からぬが――抱合されていて、その空気から突出することはない。一部の通りにはやや錆びた趣きもあるが、しかしそういう筋の一つや二つ、浅草にだってあるだろうという程度。浅草と違うのは、バスを連ねて観光客がバンバンやって来るような町ではないところだ。もちろん土産物屋は盛んだが、しかし此処大須はそうしたヨソからの客に向けられた町でなく、あくまで地元名古屋っ子たちの拠り所といった感じが強い。

 それこそ縁日の出店がそのまま常設の店舗になったような居住まいである。なので歩きながら食べられる、"テイクアウト"と言うか、屋台的な食べ物が道の其処彼処でワンサカ売られている。たとえばソフトクリーム、大判焼き、クレープ、たこやき、ホットドッグ、そば焼き、コロッケ、揚げパン、甘栗、台湾名物屋台?(唐揚げデス)、ケバブ、シュハスコetc...国際色極めて豊か、ないしはヒジョーに怪しい、よく言えば極めてエキセントリックな(←しかし都合イイ言葉だね)テイストが色濃く漂っている。そうそう、横浜中華街みたいな裏路地もあるしネ。普通バーガー専門店というと、まだ少し奇異な存在に映ることが多いのだが、こんな縁日屋台の賑やかさの中にあっては、まるで違和感が無いどころか、むしろバーガーのルーツに極めて忠実な売り方をしている(1904年、セントルイス万博でのスタンド販売で有名になった)と言った方がより適確だろう。新旧&東西文化を幅広く受け入れるこの町の寛容さと下町ならではの人情深さ――そんな大須の空気が大好きで、店主夫妻は'04年4月、観音通りの一角に小さな店を出した。

 隣は串かつ屋、向かいの角はジューススタンド、そして道を挟んで富士浅間神社が真向かい。アーケードの商店街らしいスローな空気が溢れんばかりのシチュエーション。店の前に10席ばかり、種類バラバラの椅子机を並べて、そこでいただく――つまりこれは屋台である。ご主人は江戸で言うならチャッキチャキの職人さんで(尾張弁では何と言うのか)、「自分はただやるべきことを当り前にやっているだけ。持てるもの全てを注いで、それで美味しくないと言われたらそれまで」と、まさに竹を割ったような明快な想いでバーガー1つ1つに全身全霊を込めて作っておられる。「ずっと対面のサービスがしたかった」と言うご主人。見ていると、間断無く入る注文を片端からテキパキとこなす姿が実に気持ち良い。「当たり前のことをやっているだけ」とは言うのだが、しかしその当り前は世間一般からすれば随分手の掛かったもので、例えばパティについては部位を切り出すところから作業し、肉の状態を見てミンチの配合を自分で決めるといった、普通は肉屋がするようなところまで技能を得て自身でこなしてしまっているのだが、しかしそれはご主人に言わせれば全て「当り前」のことなのだから、つまり褒め様が無い。この人の場合、「褒め様が無い」というのが最高の褒め言葉かも知れない。

 最上級のステーキを片手に収まるスケールにぎゅっと贅沢に凝縮させて――というのがロコバーガー\480のコンセプト。全ての具材が混然一体と混ざるタイプのバーガー、あるいは「パンの間にハンバーグを挟む」という基本ルールを押さえつつ、独自のアイデアを凝らした独創的なバーガーと言っても良い。他にマグロを使ったアヒカツバーガー\480、チキンみそかつバーガー\480、ゴルゴンゾーラチーズバーガー\480、プレーンバーガー\380。フライドポテト\150、大粒のブラックタピオカ入りモミティーは\350。値段は"大須価格"だそうで、「これ以上高いと売れねえよ!」というギリッギリの設定と……ココでもバーガー500円上限説は健在。

 カゴに深々と収まり、紙ナプキン代わりのポケットティッシュが添えられて来る。四角い扁平バンズはイタリアの食パンで有名なチャバタ生地。敢えて余分な味を除き、言わば「ごはんのような存在」を目指した。そのためか、途中どんなに個性的な具材の味に出会おうとも、食べ終わってみれば意外やさっぱりとしていて、まるで重くない。ちょっと粉を振り過ぎな気もするが、なかなかのアイデアものだ。中は名古屋風味の甘辛味の効いたキンピラにシュレオニ、ベー、チー、トマ、ふわふわの玉子焼き状エッグ、ソー、パティ、レタ&キャベは千切り状、下バン。味のリードはトマトソースに酸味をまろやかにするために赤ワインを加えたソース。甘酸っぱさが軽快なこのソースがグーッと全体に回り込んで、巧くまとめている。レタスの風味とキャベツの歯ごたえを活かしたフレッシュ野菜とチャバタ生地のバンズの食感がまず前面に立って、ややドライな感じのバーガーだが、感触絶妙なるパティと言い、玉子と言い、下味程度にほんのり効いたモッツァレラチーズと言い、トマトと言い、最後に余韻を残すキンピラのほの甘い味噌味と言い、細かな細かな味のバランスの上に成り立つバーガーで、「480円」という値段を考えれば相当に贅沢な一品だ。さらにこのロコバーガーにゴルゴンゾーラクリームチーズと焼きオニオン、ガーリックチップをトッピングしたロコスペシャルバーガー\580があるが、こちらの方が味がグッと前に迫り出して来ると言うか、より立体的に感じられて、一段と美味しさが増している。鉄板の上でカリッカリに焼けたゴルゴンゾーラの""、そしてガーリックチップのアクセントが絶品!でも後口さっぱり!

 キーワードは「根っこ

 loco(ロコ)という言葉は「ローカル(local)=地元」という意味のハワイ語と英語の混成語で、ロコバーガーという店名には、ご夫婦ふたりが大好きな「ハワイの」という意味とともにもう一つ、「地元の」という意味も多分に込められているという。最近ご主人は、ふとしたきっかけから各地のイベントに呼ばれてバーガーを焼く機会が増えているそうなのだが、しかしそれも大須という「根っこ」があってこそやっていけることなのだと。厨房周りが狭く、ときに食材の貯蔵にすら場所欠く店ながら、でも野菜が無くなったと八百屋に言えば3分で持って来てくれる――そんな商店街ならではの融通と付き合いの良さが地元の頼もしさであり、また気安さでもあり、言うなれば商店街全体がロコバーガーの大きな台所の様な存在なワケなのであって、それほどまでに心強い「根っこ」をバックに持っていること自体、昨今なかなか無いことではないかと羨ましくすら思えるほどに、ロコバーガーは心底ロケーションに恵まれている。"大須"という町があって、そこに暮らす人がいて、そこに自分たちの店があって、そして奥さんが留守を守っていて……地元に深く根っこを生やした、世界に一店きりの個人店というものの持つ、意味合いの深さ、あるいはその"大切さ"、そして"素晴らしさ"といったものを、今回私なりに初めて理解できたような気がしている……ってまぁ、"気がしている"程度じゃあアカンのですが。

 さて、ムダ話もそろそろやめとかないと、職人肌の――て言うか職人なんですが――ご主人から「余計なこと言うんじゃねぇよ!」と、どやされるやも知れない(ご注意:実際のご主人はそんなオッカナイ方ではありません――脚色です)。てコトでここらで終わらせときますか。……あぁ〜しっかし褒めるところのひとっつも無い店だなぁ〜!!


― shop data ―
所在地:愛知県名古屋市中区大須2-17-35
地下鉄鶴舞線 大須観音駅歩5分 地図
TEL:052−203−8161
オープン:2004年4月
営業時間:11:00〜20:00
定休日:水曜日(要確認)

2006.10.4 Y.M