― 計画6 ―

 但し、選曲・再生全般をすべてPCに委ねるについては、問題点もいくつかある。

 ”2年後カフェ”では音楽をそれなりに大きな音量で流そうと思っている。かかる曲に一喜一憂できる音量―但しオーダーするのも難儀なほどの轟音や、お喋りするも憚られる張り詰めた「静聴」の雰囲気…にはしたくない。"くつろげる空間"が目標なので―その点、PCを音源にしたとき音質の面でどうか…という疑問が持ち上がる。あとCDデータをすべてPCにダウンロードして…とはいうものの、ただ落とせばいいというものでもなくてたとえば次の曲とつながっている曲もあれば、そのままかけるには長過ぎる曲もある。それらについては編集の必要がある。

 さらには(こちらの方がより重大な問題だが)CDによって音量が大きく違う―たとえばデジタルリマスター盤として再発された最近のモノはかなり大きな音量で突っ込んであるが、それに比べると旧盤は随分と小さい。では新しければ音量はみな同じかというとそうでもなく、作品によりマチマチである。それらをまったく調整せずに続けて流すと、やたら大きい曲もあれば小さくてさっぱり聴こえない曲もある、ガタガタな状態になってしまう。実際、有線では各曲間の音量調整など一切せずにまんま垂れ流しにしている(―ときもある)ようでガッタガタである(もう少しちゃんとやれヨ)。そうした音量差をイチイチその場で気にするのは面倒だ―そう考えるとやはり事前のある程度の加工・仕込みは不可避ということになる。

 そんなワケでとりあえずCD-Rを使ってCDプレイヤーで再生という方式で、考えを進めてゆくことにする。そこでまず"700MBのCD-R=80分"でかつて検討した"仮の営業時間13時間"を区切ってゆく。その上で時間帯ごとに名前を付ける(コレも仮ということで)。

10:00-11:20a.朝…というか午前中
11:20-12:40a.午前中〜b.お昼
12:40-14:00b.お昼〜c.昼下がり
14:00-15:20c.昼下がり
15:20-16:40c.昼下がり
16:40-18:00d.夕方(←微妙な時間帯)
18:00-19:20e.宵の口?
19:20-20:40f.夜―始まり
20:40-22:00f.夜―たけなわ
22:00-f.夜―お開き

 もちろん分類の仕方には飲食業としての戦略的要素も多分に含まれてくるだろう。狙う客層や稼ぎたい時間帯によってドリンクメニュー・フードメニューのみならず、BGMも大きく変わってくる(…筈である)。ただその辺のことは後から調整可能なことなので、とりあえず今は置いておく。問題は大きく6つに分けたカテゴリーそれぞれの、いかにも「っぽい曲」を集めることである。どのようにして集めるか?どんな観点で選ぶのか?

 ちなみに夜の音楽の収集は簡単。まぁ一日の半分は夜なので。夜に合う曲は?…と聞かれたら、まぁ誰でも比較的容易に数曲は挙げることが出来るだろう。困難なのは「昼下がりと呼べなくなった時間帯から夕暮れと呼ぶにはまだ早い時間帯」や「日は暮れたけどまだ夜の帳とは言い難い微妙な明るさの時間帯」など、要は「朝」「昼」「夜」という三原色的・単純明朗な割り方では割り切れない"過渡的な時間帯"の、その"微妙なニュアンス"をどう音に表すかというところにある。今回の"2年後カフェ"計画では、その辺りに特に力を入れたいと思っている。

 "その辺り"の話をする前に、「夜」の話にケリを―。夜は簡単…とは言ったものの、夜を「夜」という大きなくくりの中で一緒くたに扱うのは、人の心の機微を知らぬ、あまりに不人情な所業と言わざるを得ないだろう―ということを断っておく。要は飲み会を想像していただければよろしい―世に言う"飲み会"には大概始まりがあり、盛り上がりが最高潮に達する時間があって、やがて終わりがある―お開きの頃に「さぁーこれから始まるよ〜!!」てな曲が流れては場違い千万だし、最っ高に盛り上がりまくってるトコロにしーんみりした曲を流してもまた、空気を読めぬ"不調法者"の烙印を押されて致し方無き大失態と断じて良い。もちろん何組ものお客さんのペース個々にBGMをぴーったりと添わせてゆくことは不可能なのだけれど、それでもおおよその"感覚"として、その場に醸される"気分""雰囲気"というものを"時間帯"に反映・投影させることなら出来るだろうと思うのである。なのでせめて楽しい集いの「始まりの気分」と「宴もたけなわな気分」と「そろそろお開き…な気分」と、大別してそれくらいは心得ておくべきだろうということである。

 但し!"お開き"な気分というのを即「蛍の光」と履き違えてはならない。そういう露骨な"合図"を指しているのではなく「宴の終わりを惜しむ」の心、「楽しい時がこのままずっと終わらないで欲しいと願う」の心を、巧みに音に表す工夫についての話である。別な言い方をすれば、いかに「あー今夜は楽しかった!」という気持ちで帰ってもらうか―ということ。終わり良ければすべて良し、何事も"詰め"は肝心である。楽しいひとときの印象と結び付いて、いつまでも記憶に残るような、そんな一曲をかけたい。あるいは帰り道、楽しい余韻とともに、ずーっと同じメロディが頭の中で繰り返し繰り返し鳴り続けてやまぬような、そんな脳裏に焼き付く一曲をお客さんに持ち帰ってもらえたなら、それこそDJ冥利に尽きる、最大最高の成果であろうと考える―その一曲の記憶を手がかりに、必ずや「またあの店へ行きたいな」と思い出してくれることと確信するからである。それこそ本望!あと、去り際の肩越しにチョー後引く一曲―というのも悪くない。(つづく

2004.6.18 Y.M